島の甲状腺がんは被曝影響と関係ないのか 2016.3.31



 福島で原発事故当時18歳以下だった住民に甲状腺ガンが増えている。現在、分かっているだけでも166人。本来100万人に2ー3人といわれる発症率に比べて200倍前後の確率で、明らかに「多発」の状況だ。チェルノブイリ原発事故で甲状腺ガンが増えたように、福島も放射線の影響があるのだろうか。「突然、ガンだといわれてショックが大きく、大変つらい思いをした」
「誰にもガンだと言えなかった。子供も友人に話せず、おおやけにも相談できず、家族だけで悩んでいた」
 それぞれ、子どもが甲状腺ガンと宣告された親の思いだ。この2家族は福島県中通りに住み、福島原発事故当時、子供は18歳以下だった。事故後38万人を対象に行われた県の甲状腺検査でガンと診断され、それぞれ手術を受けた。手術をすれば生涯薬を飲み続けなければならないうえ、再発の可能性にも怯える日々が続く。 
 甲状腺とは「のどぼとけ」の下にある蝶の羽を広げたような形をした臓器のこと。ここから、体の新陳代謝や成長ホルモンを促す甲状腺ホルモンが分泌される。この部分がガンに侵されたのだ。
 なぜ甲状腺ガンになるのか。原因の一つされているのが被曝だ。甲状腺はホルモンを作る材料としてヨウ素を取り込む。この働きは成長する子供ほど活発だ。だが、甲状腺は原発事故や原子爆弾から放出される放射性ヨウ素も取り込んでしまう。
 一度組織内に入った放射性物質は、放射線を放ち続けるため、照射を受け続けた細胞がガン化することがある。原爆が落とされた広島や長崎では周辺の住人に甲状腺ガンが多発し、チェルノブイリ原発事故後も患者が急増したことからも、被曝とガンの因果関係は証明されている。
 福島では2011年10月から2014年3月まで実施した「先行検査」と、2014年4月から継続中の「本格検査」を合わせると、現在までに166人が甲状腺ガンかその疑いと診断された。


       写真・文/桐島 瞬
       
被ばくの影響は考えにくい?

 小児甲状腺ガンの発症率は100万人に2ー3人といわれる。つまり福島では、146倍から218倍という高い確率で発症していることになるのだ。だが、県は異常多発を目にしても、いまだ被曝の影響は認めていない。
 福島県の県民健康調査課は「(甲状腺検査を行う県民健康調査の)検討委員会においては、これまでに甲状腺検査により発見された甲状腺ガンについては、放射線の影響とは考えにくいとの評価で一致しているものと受け止めています」
 その検討委員会の星北斗座長は、放射線の影響を完全に否定はしないと言うものの、「分かっている範囲で考えて、現時点では考えにくい」という。
 検討委が3月にまとめた中間とりまとめには、こう書かれている。
「先行検査を終えて、我が国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い甲状腺がんが発見されている。このことについては、将来的に臨床診断されたり、死に結びついたりすることがないがんを多数診断している可能性が指摘されている」
 つまり、発見数は多いが、それは検査をしたから見つかったものだとして、こう結論付ける。
「これまでに発見された甲状腺がんについては、被ばくの線量がチェルノブイリ事故と比べて総じて小さいこと、被ばくからがん発見までの期間が概ね1年から4年と短いこと、事故当時5歳以下からの発見はないこと、地域別の発見率に大きな差がないことから、総合的に判断して、放射線の影響とは考えにくいと評価する」
 要はチェルノブイリで甲状腺ガンが大量発症したときの状況と違うから、福島での多発は放射線と関係ないとの主張だ。
 だが、こうした検討委の考え方に異論を唱える専門家もいる。環境疫学を専門とする岡山大学の津田敏秀教授は
「被曝線量がチェルノブイリに比べて10分の1などと言われていますが、放射性ヨウ素に関してきちんと測定はされていない。世界保健機関(WHO)が出した福島での線量評価は最高が200mSv。この数値は上回っていると考えるべきです」
 確かに、事故直後にきちんと被曝量を測定出来ていたとは言いがたい。チェルノブイリでは約35万件が調査されたが、福島ではその4%の1500人に過ぎないからだ。
 検討委の「チェルノブイリと比べて当時5歳以下からの甲状腺ガンの発見がない」との説明には、ロシア研究家の尾松亮氏がこう指摘する。
「ロシアで事故時0ー5歳の層に甲状腺ガンが目立って増えたのは、事故の約10年後から。一方、事故時15ー19歳の層には事故直後から増加がみられ、5年後あたりから目立って増えています。ウクライナ政府の報告書でも事故から5年くらいの間には0歳から14歳の層に顕著な増加は見られず、むしろ15歳から18歳の層に増えました」
 更に、検討委の「県内の地域別発見率に大差がない」との指摘にも、津田氏は「地域によって5倍ぐらい発見率が違う」と反論する。津田氏は昨年10月、国際環境疫学会が発行する医学雑誌に、福島で甲状腺ガンが多発する状況を分析した論文を載せていた。

リスクを背負い続ける県民

 このように、検討委の考え方には外部の専門家から異論が出ている。チェルノブイリで甲状腺ガンが多発したのであれば、福島でもそうなることを前提に検討が進むのが普通だ。
 だが、実際には逆の方向で議論が進んでしまっているように見える。となると、冒頭で紹介した患者やその家族が不安になるのは当然だ。もし被曝の影響なら、国や事故を起こした東京電力がそれなりのケアや補償を用意するのが当然だが、関係ないとなればそうしたことも一切なくなるからだ。
 また、福島にはいまだに放射性物質があちこちにあり、この先数十年から数百年はなくならない。となると・・・以下、会員のみとなっております。


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