蕨平の焼却施設はなぜ止まったか 2016.5.31


 福島県飯舘村の蕨平地区。山の中腹に巨大工場のような建物が突如として出来たのはここ1年来のこと。除染ゴミを燃やす目的で環境省が作った「仮設焼却施設」で、414億円の税金を投じた最新鋭の設備だ。
 福島には現在、大量の除染廃棄物が発生している。これらの核のゴミは建設中の中間貯蔵施設に運び込まれるまでの間、各地の仮置き場に保管されるが、場所が足りず「仮・仮置き場」なるものもあちこちにできている状況だ。
 そこで、少しでもゴミの量を減らそうとできたのがこの施設。可燃性の除染ゴミを燃やして灰にすることで嵩を減らす。さらに併設した「仮設資材化施設」では、出来た灰の一部から放射性物質を取り除き、盛土剤や再生路盤材に使う。
 焼却施設は一日240トンを燃やし、仮設資材化施設は一日10トンを処理する能力を持つ。これらを3年間動かすことで29万トンの飯舘村の燃える除染ゴミと、7万トンの村外(福島市、南相馬市、伊達市、国見市、川俣町)のゴミを処理する計画だった。
 だが、1月から動き出したものの現在は運転が止まっている。
 この施設付近をよく通る住民が首を傾げていう。
「1月ごろから稼働し始め、4月までは工場の煙突から煙が出ていました。ですが、いまはまったくそれがない。止まっているのではと噂では聞きますが、発表も何もされていないので正直わからないのです」


      取材・文 桐島 瞬

10月まで収集もストップ

 早速、取材を始めるとある資料を入手できた。
「蕨平仮設焼却施設の前処理設備改修計画について」
 飯館村が環境省からの報告をもとに作成し、村議会に示したものだという。そこには「焼却処理での問題」として、こう書かれていたのだ。
「@湿った廃棄物が粘土状になり、回転刃等に付着し裁断できない
A可燃フレコンバックに金属物、コンクリート殻などの不燃ごみが混入があり、破砕できず支障が生じている
B人力で廃棄物の可燃、不燃の分別を実施してきたが、焼却計画どおりに進まない状況である」
 除染ゴミを焼却炉で燃やすためにはゴミを細かくする前処理工程が必要となる。だが、異物などが入っていたためにうまくいっていないということだ。
 解決策として挙げられているのが破砕機の交換と前処理建屋の増築。4台ある一軸破砕機の3台を二軸に変える。合わせてフレコンバックの廃棄物の可燃、不燃の確認を円滑にするため、前処理を行う建屋の増築をする。これらの改修工事には5カ月を要し、9月一杯まで焼却炉は休止するという。
 飯舘村村議の佐藤八郎氏が呆れていう。
「湿ったゴミや燃えないゴミが混じっていて、焼却施設がうまく動かないということですが、除染ゴミが湿っているなんて始めからわかりそうなこと。燃えないゴミが入っているかどうかも前処理で確認すれば済むことです。村民のことなどどうでも良いから、こんな雑なことができるのでしょう。だいだい除染にしたって山林はやらないから、村の面積の15%しか行われない。風や雨で放射性物質が山から流れてくれば、生活圏もまた線量が上がります。今回の件も含めて、国のしていることは本当に信じられません」
 施設が休止するのに合わせてフレコンバックに入った除染ゴミの収集も止まる。再開されるまでに3万トンの核のゴミが仮置き場や住宅地脇などに放置されることになるのだ。飯舘村は2017年3月までの避難指示解除が決まっているが、これでは除染ゴミの横で生活することにもなりかねない。
 これだけの事態なのに、環境省は何の広報もしていなかった。環境省の出先機関である福島環境再生事務所に問い合わせると、「お答えできない」と木で鼻を括ったような答えが返ってきた。しかも、その担当者に、もう少し詳しく説明したほうがよくないかと尋ねると、「脅しているのか」と凄んできたのである。税金で焼却施設を建設して運営しているという意識があれば、丁寧に説明するのが筋ではないか。
 環境省廃棄物リサイクル対策課に尋ねると、施設が止まったのは5月だという。
「当初の予想よりも除染廃棄物が湿っていることなどが分かり、破砕できないため、処理施設の破砕機を取り換えることになりました。改修費用はまだはっきりしませんが、建設工事を請負った事業体の負担になる予定です。飯舘村には説明しましたが住民には…。今後、ホームページなどで告知していく予定です」

トラブルは以前にも

 除染ゴミを巡っては、環境省は8000ベクレル/sを超える指定廃棄物について鮫川村や福島市など5か所に仮設減容化施設を作り、処理を進める方針。
 だが、トラブルは今回が初めてではない。役目を終えて7月から解体工事に入る鮫川村の施設では本格稼働を始めた直後の2013年8月、爆発騒ぎを起こしている。このときも環境省の説明は十分とはいえなかった。
「運転マニュアル通りに作業をしなかったため、可燃性ガスがベルトコンベアなどに溜まり、灰に引火し異常燃焼した」と説明したが、爆発音を聞いた住民らから「なぜ爆発といわないのか。事故をわざと小さく見せているのではないか」と疑問の声が上がっていたのだ。
 こうしたこともあり、住民の間には今回のトラブルのことにも不信感を通り越して諦めの気持ちが芽生えている。
 佐藤氏は、「ワザとやっているのではないかと疑いたくなる」といいながらこう話した。
「原発事故直後は村に避難指示が出ず、500mSvシーベルトでも直ちに健康に影響しないといわれました。ところが次は『ここは危険で住めないから避難指示区域にする』です。だいたい放射能被曝の基準はもともと法律で厳しく規制されていたのに、それを緩和して年間20mSvまで大丈夫だという。これでは村民は何を信じたらよいのかわかりません。国は原発事故の影響を早く、なるべく費用を掛けずに終わりにしたい気持ちがあるから、我々の生活圏に核の汚染物があっても大した問題ではないと考えているのでしょう。本当にお粗末な政策としかいえません」
 福島では帰還困難区域を除く地域で来年3月を目標に・・・以下、会員のみとなっております。

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